読み物

X-ray氏作

Sorry Japanese only

誓い

 

「ごめんね、3ヶ月ぶりなのに空港まで迎えに行けなくて…」

「そんなにひどい骨折じゃないの。大丈夫。うん、私も早く会いたい。じゃあ明日ね」

 

電話を切った亜希子は、三角巾で吊った右腕を悲しそうに見つめた。

3ヶ月ぶりに婚約者の剛が、シンガポールから帰国するのだ。

しかし、利き腕の右手が動かなくては、料理、洗濯、掃除、どれもうまくいかないだろう。

 

翌日。

 

「ご馳走様。おいしかったよ」

「ごめんなさい。こんないびつなハンバーグしか出来なくて」

「何いってるんだよ。僕の方こそごめん」

亜希子と向かい合う席の剛は、申し訳なさそうに言った。

「僕のために、その不自由な片手で買い物をして、夕食を作り、部屋を片付けて。ほら、こんな花まで飾ってくれて。それだけで十分すぎるほど感動だよ」

剛は立ち上がると、歩み寄り、立ったままの姿勢で亜希子の肩を抱いた。

 

「ううん。私、もっともっとあなたにたくさんしてあげたいわ」

 

今の二人には、離れていた時の寂しさは、どこにもなかった。

亜希子はすがるような瞳で見上げると、剛のズボンのファスナーに左手をすべらせた。

剛は驚いていた。

お嬢様で控えめな女だと思っていた亜希子が、これほど情熱的であることに。

そして、亜希子の何もかも…そう、利き腕を拘束しているギプスまでもが、いとおしくてたまらない存在になっていたことも。

 

「腕、よく見せて」

 

亜希子の右腕全体を、真白い大きなギプスが包み込んでいた。

骨折したかわいそうな骨を、ガッチリと守りながら。

全く稼動することのできないように、折り曲げられた肘。

三角巾が、首から亜希子を抱え込み、動けないよう不自然な姿勢へと強いている。

軽く曲げた力ない指先。透明な輝きを放つ清潔な爪。

ザラザラとしたギプスを、剛は狂おしいほどの思いを込めて撫でた。

(痛むか?僕が出来ることは全部手伝うから、無理しないで)

 

亜希子は、もどかしい手付きで剛のトランクスを下ろした。

健康な左手と、動かないギプスの右手。

ふたつの手のひらで、剛のペニスを柔らかく包み込んだ。

やがて、熱く甘い唇から、亜希子の「愛している」という想いが溢れてきた。

剛が見下ろすと、頬を染め潤んだ瞳が、恥らうように睫を伏せた。

 

「おいで」

 

剛は膝を付いて亜希子のブラウスに指を伸ばした。

露になっていく上半身の艶やかな肌がまぶしい。

そして剛は、丁寧に右腕を支えながら、壊れ物を扱うようにそっと、三角巾からギプスの腕を抜いた。

 

「こうすると痛い?」

「大丈夫みたい」

「ああ…」

 

かすかに震える肩を抱きしめて、亜希子の唇を塞いだ。

無粋な言葉などいらない。

剛は、左腕だけで支えられた不自由な身体を受け止めて、優しく横たえた。

持ち主を失った三角巾は、美しい曲線を描いたバストの膨らみと重なる。

真っ白な三角巾に透ける、突起した乳首。

剛は、亜希子を守るように覆いかぶさると、首筋からキスを這わせた。

肩に、背中に、足に、亜希子の全身に、この心が沁みこむように。

 

芳醇な香りのあたたかな亜希子の中で、剛は祈った。

亜希子の痛々しい腕が、早く治りますように。

そして、亜希子を永遠に愛していこうと、固く誓ったのだった。

亜希子も、同じ気持ちであった。

愛する想いをこめて、重く固いギプスの腕を、ぎこちなく剛の背中に回した。

 

 

END