第7話
今日は、怪我をして3週間目。週に一度の診察の日だ。今日、手術の具体的な話があるはずだ。僕は、半分嬉しいような、でも半分悲しいような心持で、病院へと向かった。今日も有季が付き添ってくれるし、少し心強い。 病院に着くと、20分ほど診察の順番を待った。僕は、ほとんど会話をせず、ぼ〜と今までの事を振り返りながら、待合室に飾ってある絵を眺めていた。 「的場さん」 僕は、この言葉に反応して、診察室へ入った。 「どう、具合は?」 「全然変わりません。可もなく不可もなくって感じです。」 「そうか。ちょっと、言いにくいんだけど、実は、君のCTとかMRIの写真をよくよく見ていると、ちょっと普通に手術したんじゃ、難しいかなって部分を見つけちゃったんだよね。」 「え、どう言うことですか?」 「つまり、この前の説明とは、別に他の手術を受けないといけないかもしれないんだ。しかも、その手術は日本で出来る医者がいないから、海外でやる必要があるんだよ。」 「え、それって、受けないとやはりテニスは無理なんでしょうか?」 「はっきり言うと、きついね。やっぱり。」 「そうなんですか?ちなみに、それってアメリカで受けれるんですか?」 「あ、それは、出来るよ。ニューヨークの病院に紹介できると思うけど…」 「そうなんですか。それって、どこが悪いんですか?」 「軸が悪いんだ。君の膝のCTとかMRI見てると靭帯の怪我を考えても明らかに左足と比較して軸がずれてるんだよ。それって、かなり、難しい手術でそれをひきうける医者は、日本には数人しかいないんだ。でも、そう言う人に診てもらうとなると一体いつになるか分からないんだ。」 「え、そんな重傷なものなんですか?」 「そう言ういい方が正しいかな。」 「そうなんですか…」 「どうする?手術の事する?」 「まあ、多分そうなると思うんですが、親と相談して見ます。」 「じゃあ、そうしようか。でも、返事は明日もらえるかな。こっちの都合で悪いんだけど、そうするなら、そうするで準備があるから。」 「分かりました。」 「あ、電話で良いよ。一々来るの大変だろうし。病院にかけてもらって、僕を呼び出してくれれば。」 「はい。」 と、うつむき加減で言うと診察は終わった。 診察室を出ると、有季は言った。 「なんか、本物のスポーツ選手ぽいね。海外に手術しにいったりするって。でも、受けるべきだよ。ちょうど、ゆうの進もうとしてるベクトルにあってるんだから。」 「まあね。でも、なんか、アメリカで手術受けるなんて、考えても無かったよ。しかも、ニューヨークでしょ。なんか、凄い展開になってきちゃった。」 「うん。でも、良い医者で良かったじゃん。普通の医者なら気付かなかったかも。」 「かもね。山田先生のお薦めだし。でも、なんか、嫌だな。自分がここまで重傷なんて。結構、へこむよ。」 「もっと、前向きにポジティブに行こうよ。いつものゆうらしくないよ。」 「うん。でも、そう言う気分じゃないし。」 「もう、しっかりしてよ。後で、Hしてあげるから。」 「あ、それあると、元気になるかも。今日は深く熱くがテーマね。」 と冗談を言ってみたが、やはり体は元気がない。自分の怪我がそんなにほどいのかと今、真剣に考えてしまっている。一体どうすれば、良いのか。そして、どうすれば、1番良く治るのか。自分の中では、答えは分かっているのだが、あえて、それを問いかけ続ける自分がここにいた。 この後、1時間ほどしゃべりそして、うちへ帰り、有季とセックスした。しかし、しゃべってる間もセックスしてる間も僕の心の中の問いかけは絶え間無く、続いた。そのせいか、Hはいつもほど気持ち良くなかった。何をしていても楽しいと言う精神状態ではなかった。 その夜、親と僕は話し合った。 「そう言う話なんだけど、どうしよう?」 「アメリカまで行かないと行けないの?」 「うん。そうでないと、手術できる医者がいない。」 「まあ、行く事自体は、元から、アメリカ行くからそれは問題ないとしても、手術をするってのがね。時間がそんなにないでしょ?」 「そう、ない。全然ない。」 「どうすべきなのかな?」 「全然見当もつかない。」 「でも、向こうで手術しないとテニスは復帰出来ないんでしょ。それなら、何がなんでも時間を作る以外に方法がないんじゃない?」 「う〜ん。まあね。それしかない。」 「なら、相談する必要もなく、手術受けるで良いんじゃないの?」 「まあ、そうだけど。」 「何か問題でもあるの?」 「1つだけ。こんな怪我した状態で渡米してどうしたら良いのかなって?何か、困っても、体がこんなんじゃ、行動も制限されるし、精神的にも孤独で寂しいし、でも誰かについてきてもらうわけにもいかないでしょ。ましてや、ニューヨークなんて知り合い一人もいないし。」 「有季ちゃんは?」 「そこまで、頼めないでしょ。さすがに。今でもさんざん迷惑かけてるんだから。例え、彼女が自分の奥さんであったとしてもそこまで言えないよ。」 「いや、有季ちゃんなら、きっと助けてくれるよ。1回相談して見たら?」 「う、ん。そうする。」 僕は、少し悪いなと思いながら、有季に電話をかけてみた。 「もしもし、有季?今、大丈夫?」 「うん、全然OKよ。何?手術決めた?」 「いや、ちょっと言いにくいんだけど…」 「何?」 「誰かにニューヨークまでついて来て欲しいんだ。こんな怪我した体じゃあ、何にも出来ないから、誰か精神的にも肉体的にも支えになってくれる人が欲しいんだ。」 「それをうちにって事?」 「まあ、早い話」 「全然快諾よ。ニューヨークなら向こうに行ってた頃の友達もいるし。住み慣れた町だから、不自由な事もないし。」 「本当?本当に良いの?」 「全然OK。」 「ありがとう。じゃあ、向こう行って手術するや。」 「じゃあ、決定だよ。私もいつでも行けるように心の準備をしておかないと。」 「本当に、迷惑かけっぱなしだね。最近、有季のために何もしてあげてないよ。」 「全然良いの。気にしないで。」 僕は、この時ほど、有季の優しさが嬉しい日はなかった。そして、有季の優しさに感謝しながら、僕はやっと心を落ち着かせ、ベットに入った。 次の朝、久々に良い目覚めの僕は、朝一番で、電話をかけ、手術をアメリカで受けるという意思を伝えた。 何か、大きな重荷がひとつ肩から降りて、僕は少しリラックスした。かなり、体は疲れている。ただ、僕はこの重荷が降りた事が何よりも大きかった。僕は、疲れを取ろうとベットに入った。僕は、本当に疲れていた。 感想を下記までお寄せください。 Written By
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