読み物

ミイ

Sorry Japanese only

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「おかしな2人」

彼女との出会いが、平凡な私の人生を変えた。
17歳の春の出来事。

こんな田舎の高校に転向してくるなんて、きっとわけありに違いない。
4月のある日彼女は突然現れた。
「菊地 さやか です。これからよろしくおねがいします。」
担任と教室に入ってきた彼女は前の学校のセーラー服姿で私達に挨拶した。
教室がざわめいた。彼女がとびきりの美少女だったことっもあるが。
何よりも目を引いたのはその足だった。
膝上のスカートからすらりと伸びた右足、対照的に左足には
太腿からつま先までのギプスが巻かれていたのだ。
木製の松葉杖をうまく使いさやかは窓際の後ろの席についた。

私はこのときすでに彼女の虜になっていた。

休み時間さっそく尋問が始まった。
「どこから来たの?」「前の学校ではなんて呼ばれてた?」
みんなの質問に気さくに答えるさやか。
誰かが聞いた。「左足、どうしたの?」
「え、事故に遭って・・・。」それ以上は答えなかった。

しばらくして、クラスにもなじんでくるとさやかは少しずつ左足のことを
話してくれるようになった。
家族で自動車事故に遭い、両親はそのときに亡くなったこと、
自分は奇跡的に助かったが、左足に大怪我をしたこと、遠くの町の大学病院に通い
治療を受けていること。

左足の骨は膝の付近を中心に複雑に骨折していて、靭帯も酷く痛めていたため
完全に元通りになることはないと医者に告げられたこと。
何回も手術と入院を繰り返し、前の学校に居づらくなり転向してきたこと。
そのころすっかり親友になっていた私には、とくに詳しく話してくれた。

私にはさやかを初めて見たときから、ずっと抱いてきた感情があった。
それはさやかではなく、足にギプスを巻いた松葉杖のさやかにである。
憧れ、に近い感情で、その思いは日に日に膨らんでいた。

その日は突然やってきた。夏休み前の7月の日。
高校からの帰りさやかの家に寄った私はついに軽く気持ちを告白してしまった。
「さやか、私ね。少しギプスに憧れてるんだー。」
「そうなの?」
「ねぇ、その松葉杖貸してくれない?」
「いいよ。マキならサイズも同じだし。」
部屋着に着替え、椅子に腰掛け雑誌を読むさやかは笑いながら貸してくれた。
初めての松葉杖に興奮している私に気付いたのか。
「マキ、私ねマキがそういう気持ちになってるの知ってた。」と言った。
「え。」自分の秘密の気持ちがばれてしまったことが恥かしくて何も言えない私に
さやかは話し始めた。

「まず、ごめんなさい。マキには全て話すわ。」
「私ね、うそついてたの。事故に遭ったのは本当、両親がなくなったのも
でも、左足はもう治ってるの。確かに骨折したし靭帯も痛める酷い怪我だった。
だけど半年くらいで良くなってきていたの。あのまま病院へ通っていれば、今ごろ
装具をつけて歩けるくらいにはなっていたと思う。」

「ええええ?どういうこと?」混乱する私に続けて話した。
「目覚めちゃったのよ。好きみたい。こういうの、小さいころから包帯をしてる人や
松葉杖をついている人に憧れてた。自分もそんな体験ができるなんて、夢のようだわ。

ずっとこのままでいたいって思ってしまったの。たとえ不自由でも。病院を退院して
すぐこっちへ引っ越してきた、ひとりで大変だったけど、ひとりだからできた。
すべて私だけの秘密だった。でも今日からは、マキと2人の秘密。」
その日は、夜遅くまでお互いの気持ちを赤裸々に語り合った。

次の土日、さやかと私はお泊り会を計画した。
さやかの左足のギプスをはずす手伝いを頼まれた。
「もう、汚れてきちゃったし、そろそろ治らないとクラスのみんなも怪しむから。」

と言うのが理由で、本当はまだこのままでいたいと言うのが本音らしい。
通販で購入したギプスカッター、目にするのも初めて、さやかの足を傷つけそうで
怖かった。足が痩せゆるくなっていたギプスは簡単に外れた。

「久しぶり!生足さん。」とふざけるさやか。かれこれ4ヶ月ぶりらしい。
しかも、巻きなおして4ヶ月ぶりなので、かなりの間ギプスだったみたい。
生気の無い細い細い左足をふらふらさせながら、松葉杖をついてお風呂へ向かった
「キレイにしてくる。ちょっと待っててね。」

「おまたせ、次はマキの番ね。」お風呂から戻ったさやかは、私の右足を持ち上
げて言った。

「部活中に捻挫したんだよね。」うふふと笑った。
アリバイはきちんとしなきゃと、昨日部活の途中足を引きずりながら抜けて来た。

あとであれこれ言われたら面倒だもん。我ながら良く出来た。
「マキは、寮生活だから、ギプスじゃ不便でしょ。シーネにするね。」
「これだとすぐはずせるから。でもしっかり固定されるからね。」
右足の足首は90度、膝は30度で包帯をぐるぐるに巻かれた。
松葉杖は今までさやかが使っていたものをプレゼントされた。
みんなにばれないように脇当てに包帯を巻いてくれていた。さやかは黒いのが剥き出し
で使っていたから。

その日は膝の下にクッションを入れてもらいウキウキしながら眠った。
さやかは遅くまでインターネットで何かを探しているようだった。

目が覚めるとさやかは消えていた。
「もうすぐ夏休み、リハビリ合宿に行ってきます。」と置手紙。
前にもらった合鍵を使いさやかの家に鍵をかけ寮へ戻った。
松葉杖で歩くのが予想以上に大変だった。
「明日学校でみんなになんていわれるかな?」そんなウキウキの気持ちと。
さやかが突然入なくなったことへの動揺、心はぐちゃぐちゃだった。

学校ではバレー部のみんなが心配していた。私の足を見てツライ顔をしてる子もいた。

高校最後の試合にはとても無理とわかったから。私もあわせてツライふりをした。

部活にはそれっきり行かなくなった。
そのまま私は夏休みを実家で過ごした。
新学期が始まってもさやかは帰ってこなかった。
担任から足の治療に専念するために学校を辞めたと聞かされたのは9月のことだった。

私は、夏休みの間中右足を固定しつづけた。今はシーネをやめて、時々包帯を巻
いて楽しんでいる。

あの後、さやかの家を一度覗いたが全てのものが片付けられていた。
本当に跡形も無くいなくなってしまった。
クラスの人もさやかの話をしなくなった。みんな忘れていった。

高校卒業後、私は地方の大学へ進学し、いまでは普通のOLとして生活している。

あの日さやかに貰った松葉杖は今も宝物。季節の変わり目などには、痛くも無い
膝にハードなサポーターをして、松葉杖で通勤している。

こうしていればいつかさやかと会える気がした。実際自分の膝は壊れているとも
思い込んでいた。会社の上司や同僚はとても理解があり、いつもいたわってくれる。

名医を紹介されることもあった。

今日も紹介された医者に診てもらうために病院へきていた。
悪くないんだから治せるはず無いのに、上司の紹介だから仕方なく来ている。
大きな病院のロビーで会計待ちをしていたとき。
むこうにカラダを大きくゆすりながら左足を引きずるように歩く女性が見えた。
なぜか気になる彼女はマキの方へ近づいてくる。
嬉しい予感。
間違いないさやかだ。
マキは立ち上がりやっと歩いてきた彼女と抱き合った。

「さやか、ずっと、会いたかった。」
「ゴメンネ。マキ」
さやかの左足にはレッグブレースがはめられていた。
長い間固定していた足は本当に動かなくなってしまったそうだ。
右足よりも細く頼りない足は、ブレースをなしではカラダを支えられないという。

「これ以上は良くならないの、私は一生ビッコなの、望んでいたの。」
「だけど、マキにはそうなってほしくなかったの。だから離れた。」
「私はさやかに会えた事後悔してないよ。悪くない足を自分で悪くしようと
思ったこともある。だから、また昔みたいになろう。」

私達は再会のあと一緒に暮らし始めた、趣味はエスカレートするばかり、
さやかは将来的に動かない左足を義足にするのが夢で、私は右足をレッグブレースで
固定して会社へ行くのが夢。
2人の楽しく過激な日々が今はじまった。