読み物

X-ray氏作

Sorry Japanese only

ギプスの匂い

 

「もしもし、藤原さんですか?雅之さんはいらっしゃいますか?」

 

「僕ですけど」

 

「おお!マサ、俺だよ俺!分かるかな?中3の時一緒だった鈴木だよ」

 

「マジかよ!何年ぶりだっけ」

 

「ついに俺らのクラス、同窓会やるんだよ!」

 

「同窓会?」

 

突然、かかってきた電話が僕の記憶をあの頃に呼び戻した。

 

 

-----------中学3年生。

 

部活も2年に譲り、段々受験や進路の話なんかも騒がしくなり始めた1学期

の終わりに、僕は好きな子が出来た。

 

名前は北島綾香。

美人というよりかわいいタイプの快活な子だった。

意識し始めたのは、綾香が腕を骨折して三角巾で登校した朝だった。

ギプスでL字型に腕を曲げられた綾香は、恥ずかしそうに、僕を見上げた。

 

利き腕を痛めた綾香は、ノートも取れず、食事も箸は使えなかった。

重たい教科書の入った鞄を持ち替えることさえできないのだから。

始めは「可哀相」という同情だったのかもしれない。

気が付くと僕の両目は、綾香を追いかけてた。

 

綾香には好きな人はいるだろうか?

僕はどう思われてる?

腕の怪我はまだ痛むのかな?

 

その頃の僕は、いつも綾香のことばかり考えていたような気がする。

 

席が近く、班も同じだったから、話す機会はたくさんあったけど、目を合わせると胸が苦しくて、思うように話が出来なかった。

 

終了式、下駄箱の前で、僕は少し勇気を出した。

 

「夏休み、どっか行かない?」

 

告白をした訳でもないのに、全血液が頭に集中するみたいに熱かった。

 

「え?うん、いいよ」

 

綾香が、誰にも聞こえないように小さな声で答えた時、

僕は嬉しくてたまらなかった。

 

 

-----------夏休み。

 

見慣れた制服とは、全く違う清楚な白いワンピースの綾香がいた。

ノースリーブの袖と三角巾の隙間から覗くギプスが痛々しい。

映画を見て、マックを食べて、僕の部屋に来た。

 

2階の6畳間にベッドとテレビ。

味気ない僕の部屋。

 

ベッドの上に綾香が座ってることが、夢みたいだった。

まるで、出来損ないの合成写真のように。

 

綾香も気まずいのか会話が途絶えてしまった。

親は出かけていた。

 

(ああ、やっぱりこんな時はキスするのかな)

 

僕の心を読んだみたいなタイミングで、綾香が目を閉じた。

おそるおそる挑戦した初めてのキスは、鼻がぶつかった。

「腕、まだ痛むの?」

 

照れくさくてギプスに話題を振ってみた。

「ううん、もうすぐ外れるの。痛くないよ、痒いくらい」

無邪気な笑顔の下で、ギプスの指が動いていた。

 

「好きだ」

素直に言ってみた。

「私も雅之君のこと好きだったの」

 

信じられなかった!!

緊張しながらも、彼女を抱きしめた指は、ワンピのファスナーを下ろしてた。

嬉しくて、嬉しくて溶けてしまいそうだった。

 

(この次はどうすればいい?)

 

もう一度キスをして、首筋にもキスをして、そのまま下がって

僕の鼻が腕の脇に来た時、ツーンとキツイ汗の匂いがした。

強烈なギプスの匂い。

 

 

あの匂いで股間が熱くなったんだよ。

西日がまぶしくて、とても暑かったなぁ。

 

走馬灯のように思い出が駆け巡った。

 

 

「おい、マサ聞いてんのか?もしもし?」

 

ああ、電話中だった。

あまりにも懐かしくて、せつない気持ちがよみがえっちゃって

脳みそが、現実逃避していたみたいだ。

 

「ああ、聞いてる。必ず出席するよ」

僕は、幹事の鈴木に返事をした。