第3話
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 こんな感じで怪我して、2日目の日も無事に終わった。そして、次の日もまた次の日も怪我人らしい、言い方を換えるとヒーローのような暮らしで月日がたち、ついに運命の検査の日がやってきた。

 高校最後の定期試験前日であまり検査と言う気分ではないが、そんな事は言ってられなかった。検査を受けて、どんな結果でも良いから自分の膝の本当の状態を知りたいという気持ちで胸が一杯だった。腫れもひいてきたし、検査する条件に不足はなかった。病院に着き、検査の受付を有季がすませてくれた。有季の学校も試験前日で学校が休みだ。彼女が今日は付き添ってくれるらしい。10分くらい待っていると無人の車椅子を押した看護婦さんがやってきて、僕の名前を呼んだ。

「的場さん。」

「はい。」

「車椅子に乗ってください。今から、放射線科へ移動しますので。」

僕は少し戸惑った。自分が今から車椅子に乗るのだ。まさか、自分がこんな年で車椅子に乗ることになるとは思ってなかった。が、初めて乗った車椅子は乗り心地が良かった。バリアフリーに対応してる病院の中だからかもしれないが、普段自分の見てるところとは違う低い視線は今までと全く違う新しい世界だった。もう少し低かったら、女性のスカートの中身が見えるのではと想像してにやけてしまうくらい低かった。看護婦さんが押して、有季が僕の松葉杖を持って横を歩いてくれた。放射線科は意外と遠かった。僕は、放射線室でどんな検査をするのかなど全く知らなかったが、とにかく退屈な時間だけはお断りとだけ思ってた。

 放射線科に着くと、美人な看護婦さんが、僕に検査申込書と検査同意書を渡し、これを書いてくださいと言った。僕は相変わらず、お国と病院は不要な書類書かせるのが好きだな〜と内心思いながら書いた。書き終わると、検査服を渡され、これに着替えて、身につけてる貴金属をそこのロッカーにしまってくださいと言われた。僕は、有季に手伝ってもらいながら、足にはめた包帯を外し検査服に着替え、時計やネックレスの貴金属を外した。

 すると、まず、MRI室に運ばれた。20畳くらいの薄暗い部屋でど真ん中に大きなドーム状の機械が置いてあった。良く見ると、TOSHIBAのロゴが入っていて、東芝はこんなもんも作ってるんだな〜と僕は思った。固いベットの上に乗せられ、変な形をした筒に穴のあいたようなものをはめられた。足錠?なんて、思ってよくよく見てみるとベットの上に固定されていた。本当に足錠だと少し笑ってしまった。足錠をされた後、今度は、腹部にベルトを巻かれ、体がベットの上に固定された。元々M気のある僕は少しSMワールドに入ってしまい、余計な創造をしてしまった。が、放射線科の看護婦さんの一言で意気消沈してしまった。

「検査は40分ほどで終わりますけど、音のしている間検査中ですから、体を動かさないでくださいね。」

僕は、えっ?と思った。体を動かすなってそんなきつい事を言わないでくれと。そして、看護婦さんによって、ベットが筒の中に入っていき、いよいよ検査スタンバイと言う状態になった。そして、看護婦さんが出て行くと検査は始まった。元から薄暗い電気がさらに薄暗くなった。いきなり、轟音が鳴りだし、ベットが微妙に動いたりしながら、検査が進んで行く。轟音は途中で止まったり、また鳴り出したり。音のしてる間は体を動かすなと言われていたので動かさないようにした。僕は、検査をしながら、曲を1人で寂しく作っていた。

 45分ほどで検査は終わった。検査室から出ると有季が外のソファーで音楽を聴きながら待っていた。僕は有季の所にすぐにでも行きたい気分だったが、看護婦さんは僕の車椅子をすぐにCT室に押して行った。結局、一言も話す事が出来ず寂しかった。CT室にもMRIと同じような形をした機械が置いてあり、同じようにベットの上に軟禁された。今度の機械は静かだったが、また動くなと言われ、そのまま20分ほど寝かされたまま検査が終わった。

 CT室を出ると、今度は有季と会話ができた。看護婦さんが、

「次はレントゲンですけど、10分ほど待っててくださいね。」

と言って、去って行った。

「検査どうだった?」

「う〜ん、有季とSMプレーしてるみたいな感じだった。」

「どう言うこと?」

「なんか、ベットにずっと縛りつけられてるんだもん。ホント、有季に恐怖のロープ使われてるみたいだった。」

「(笑) 確かに、うちが検査したときもなんかベットにベルトで押さえられたりしたや。」

なんて、僕達は少し馬鹿なトークをしていた。でも、そう言う話をしたいして気を紛らわしたかった。後、1時間もすれば僕の足がどうなってるか分かる。もしかすると、テニスは2度と出来なくなるかもしれない。そう考えると僕はどうしても気を紛らわしたかった。

 10分ほど待ってると、看護婦さんがやってきて、僕をレントゲン室に連れて行った。レントゲン室では何人かの人に手伝ってもらい服を脱ぎ、色々な態勢で4枚撮影した。撮影が終わりレントゲン室を出た頃、僕は疲れ果てて、車椅子の上でぐた〜としていた。本当に、僕は疲れていた。

 

 20分ほど、診察室の前で待っていると、僕の順番が来た。中には、沢山のレントゲン用な写真が並んで貼られていた。今、撮影したばっかのものだろう。先生は難しい顔をしながら、僕に切り出した。

「凄く言いにくいけど、今日撮ったMRIとかCTを見る限り、前十字靭帯が切れてるね。それと、内即即服靭帯は切れてはないけど、かなり伸びてるような感じだね。半月板も痛めちゃってるかな。ここ分かる?本来はここに線が入ってるはずなの。この見本みたいに。でも、ないでしょ。これは、前十字靭帯が断絶してるって事なんだ。それと、ここが、この見本と比べるとかなり薄くなってるでしょ。これが、半月版なんだけど、少しひじゃけちゃった感じだね。後、ここ分かるかな。少し、見本に比べると少しこの間が離れてる感じがあるでしょ。う〜ん。これだと、君の年齢を考えても手術は避けられないね。」

「そんなにひどいんですか?ちなみに、年齢から考えてって年齢によって手術をどうするとかってあるんですか?」

「うん。若い人は体力もあるし、これからもあるから手術するんだけど、年取った人だとどうしても体力的にも手術するのはきついし、それに、治しても先が短いと考えると体力的にきつい手術をするよりトレーニングして怪我した所をカーバーするようにするんだ。君は、テニスもやりたいだろうし、手術した方が良いと思うよ。もし、どうしても手術したくないならそう言う事も考えるけど、今日の検査結果見る限り、手術しないとテニスの復帰は絶望と言っても過言じゃないと思うよ。」

「そうなんですか…」

僕はそう言って黙り込んでしまった。横で一緒に聞いていた有季も同じように黙り込んでしまった。これが何を意味するか彼女がもっとも分かっているだろう。

「とりあえず、手術の事はゆっくり考えて。突然言われてまだ頭の整理がつかないだろうし、とりあえず、来週の診察までゆっくり頭を整理しておいて。で、その時に手術するか、しないか結論をちょうだい。今から、足にギブスするから。それと、今日から少し大変だけど、少し我慢してね。」

「ギブスするんですか…」

僕は、色々と質問したい事があったが、何も聞く気が起きなかった。右足が自分の足じゃない気がした。ほんの1週間前まではプロになってやると思いながらテニスをしていたのに、今となっては何も出来ないありさま。僕は本当に悲しかった。

 僕達は、先生に御礼を言って病室を出て、看護婦さんに案内されながら、ギブス室へたどり着いた。中には3人の人がいた。あわただしく、準備をしている。僕のギブスの準備だろう。僕は言われるがままにベットに寝かされた。1番ごつい男の人が僕に話しかけた。

「的場さんですね?」

「はい。」

「今から、右足にギブスを巻きます。今までに、ギブスをされた事はありますか?」

「はい。」

「じゃあ、分かっていると思いますが、一応、注意事項だけ行っておきます。まず、ギブスは濡らさないようにしてください。従って、的場さんの場合はつま先から足の付け根までギブスをしますので、お風呂は入れませんので。それと、装着部分を心臓より高く上げるようにしてください。特に、就寝時は、クッションなどをおいて、上げるようにしてください。それと、痒くても中に定規などを入れたりしないでくださいね。後、ギブスの中の詰め物を勝手にほじくり出したりしないでくださいね。後は、明日ギブスチェックをしますので病院に来てください。」

僕は、軽く頷いた。

 言い終わると、僕の足に靴下のようなものを履かせた。そして、手際良く水色の綿を足全体に巻いた。僕はあまりの手際の良さに驚いた。何度かギブスをした事あるが、これほど手際の良いのを見たことがなかった。

「どれくらいの角度が良いですか?1番痛くない角度を言ってください。」

そう言って、僕の足を微妙に動かしていった。僕がそのへんですと言うと、2人の人が押さえたまま、ギブスのもとの包帯をお湯につけてしぼり、僕の足に巻いていった。またもや、手際良くギブスを巻いていく。結局、包帯を4本使い、僕の右足は、白い塊と化した。ギブスが心地の良い温度に温まりギブスが少し気持ち良かった。化学反応が起こっているような音がして足がカチカチに固まって行くのが分かった。

「このまま15分くらい待ってくださいね。」

そう言うとギブスを巻いてくれた人達は片付けを始めた。

 10分ほどたつと、足はまるで石造のように固くなっていた。僕は、自分の足を叩いて見たが、びくともしなかった。もう、ギブス固まったんだな〜と僕は呟いた。有季も僕のギブスを叩いて、こう言った。

「マジック忘れたよ。」

僕は、苦笑いしながら、

「辞めてよ。それだけは」

と言った。そう言えば、小学生の頃に骨折してギブスをしていた友達にギブスに落書きをした事なんかあったなと懐かしい事を思い出していた。

 

無事ギブスが巻き終わり、車椅子から松葉杖に乗り換え、会計も済ませ、病院を出た。時計を見ると12時を過ぎていた。

「ご飯食べに行こうか?」

有季は言った。

「うん。おなか空いたね。あ、自由が丘に美味しいイタリア料理あるからそこ行こう。俺のお気に入りだから。」

「そうしよっか。自由が丘まで歩ける?結構、距離あるんじゃない?」

「そんな距離ないよ。10分くらい。どっちみち俺は自由が丘から帰るんだから変わらないって。」

「そうだったね。じゃあ、行こうか。」

と言って、2人で自由が丘に向けて歩き出した。

 

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Written By M