第4話

 

 

 

2人はレストランの前へついた。良く考えるとこの店は、地下にある。僕は、きちんと考えずに、この店に行こうと言ったが、失敗だったと思った。しかも、店の中のテーブルの下は凄く狭く、足を怪我したらこんなところじゃ窮屈だと前に思った事があった気がした。僕は、有季にここの料理を食べさせてあげたいし思い、階段を一段一段降りた。有季は、

「大丈夫?他の店にする?」

と聞いてくれたが。僕は、

「大丈夫」

とだけ答えた。

 席に行くとやはりそこも狭かった。僕は、大丈夫なフリをして、2人で分けようと言って、パスタとピザを注文した。

「ねえ、ゆう。手術するの?」

やはりと言うか、有季は、問いかけた。

「もう一度、テニスコートに立つためなら、なんでもするつもりだよ。実感はまだ沸かないけど、でも、何よりもテニスをやるってのが1番の優先事項だから。」

「そんなにテニス大事なんだ。でも、そこまで好きなら手術した方が良いんじゃない?」

「自分でもそう思う。でも、手術しないともう一度テニス出来ない自分が未だに受け入れられないんだ。だって、先週まではコートで打ってたんだもん。」

「その気持ち分かる。うちもそうだった。バスケできない自分が受け入れられなかった。でも、そう言うのって試練と思うしかないのかなって開き直ったら、凄く、気分が楽になったよ。」

「そんな簡単なもんじゃないって。俺には、あの約束があるんだから。」

「あの約束はね… やっぱ、あの約束は頭から離れてないんだ。そんな怪我しても。」

「わけないじゃん。それが俺の人生の全てかもしれないし。」

「あ、そう言えば、直美も言ってたよ。林君にとってもあの約束は人生の全てだって。」

「なんだよ、林の奴。彼女にそんな話してるのかよ。あそこもラブラブだね。(笑)」

「でも、本当にあの約束は果たさないと。いつも自分で言ってるじゃん。あれは約束と同時にゆうの夢だって。」

「うん。」

僕は、軽く頷き、

「ところで聞いて良い?有季は手術した事後悔してない?」

「なんで、そんな事聞くの?まあ、うちは後悔してないよ。あ、でも、微妙かな。大学ではバスケやる気がなくなってきたし、そう考えると少し無駄だったかもと思う。でも、バスケが出来る体になった時点で全然後悔してないよ。」

「そうなんだ。」

僕は有季の今の言葉を噛み締めると、料理が運ばれてきた。僕達は、美味しいと言いながら食べた。

 

 

E

 

 家まで有季が付き添ってくれて家に帰った。家に帰ると、母親が心配そうな顔をして待っていた。僕のズボンの先っぽから出るギブスを見ると、やはりかと言う顔をした。僕はそのまま部屋に入り、ベットの上でぼ〜としていると、有季が僕のかわりに今日の事を詳しく説明してくれた。10分ほどして有季と母親が僕の部屋に入ってきた。母親は全てを聞いたらしく、

「手術するんだね?」

と、念を押すように問いかけた。

「そのつもり。テニスやりたいから。」

とだけ答えた。

 数分の沈黙の後、母親は、有季ちゃんはいつ頃家に帰るのとだけ問いかけて、部屋を出ていった。多分、母親は僕や有季よりもずっと手術の事を真剣に考えてくれているんだろう。僕には、はっきりとそう見えた。

 2人になった僕達は、交わった。2人で交わるのは、勿論怪我をして初めてだった。しかし、僕はそこでもまた失望した。ギブスで膝ががちがちに固まってるため、正常位で交わる事が出来ず、騎乗位しか出来ない。まさしく、マグロだった。何か、有季に普通の事が出来ない自分が申し訳なくなってきて、セックスの気持ち良さも少し薄れてしまった。本当に、僕は、普通の事が出来ない。移動する事も松葉杖や車椅子なしでは出来ないし、お風呂に入る事も、トイレに行く事も、そしてセックスも普通にやる事が出来ない。そう、僕の膝の怪我、いや、僕の足に巻かれたギブスによって。

 今日の行為は長かった。3回に分けて2時間近くに及び、終わった時はもう夕方の5時に近かった。有季は僕に、

「気持ち良かった。」

と笑みを浮かべながら言い、家へ帰った。僕は有季の笑顔が嬉しかった。

 

 その夜、夕食を食べながら話題は僕の手術の話題になった。

「手術するの?」

母親は真剣な表情で言った。

「う〜ん。しようと思ってる。テニスやりたいし。」

「やっぱそうだよね。夢は捨てちゃ駄目だよね。でも、本当に、治るのかな?有季ちゃんが言ってたけど、相当難しい怪我みたいだけど。」

「分かってるけど、テニスするためならなんでもするよ。それに、いつまでもギブスはめたり義足みたいな装具つけて生活するのもゴメンだし。有季の話だと、手術すれば、数週間でとりあえず歩ける程度になるらしいよ。」

「そうなんだ。じゃあ、そうしなさい。そこまで気持ちの整理ついてるなら。でも、入院したりするの大丈夫?」

「さあ。郷に入れば郷に従え。なんでも、慣れだって。」

僕は、いつのまにか郷に入れば郷に従えと言う気持ちが心のどっかに芽生えていた。

 

 

F

 

次の日、試験1日目が始まった。ギブスをして初めて、そして手術を決意して初めての登校だ。僕は、何もなかったような感じで登校した。1時間目は現代文の試験だった。あまり好きな教科ではなく、大学には既に成績証明書を送っていたのでもう、大学に見られる成績に関係ないと踏んでいた僕は、リラックスした気持ちで受けていた。50分の試験だったが、センター形式の問題で早く終わってしまい、10分ほど時間が余った。寝るには少し物足りないし、格別眠くもなかったし、あまりやる気もないので見直しする気も全くなかった。僕は何もする事がなく、制服のズボンの上からギブスを触った。昨日巻いた時よりも固くなっていた気がした。ズボンの外から触っているとギブスの包帯の面が凄く気持ち良く感じた。何か凄く手触りが良かった。

試験が終わった後、ギブスの外に露出している部分を触って見た。やはり、手触りが良かった。僕がしばらく触っていると吉田が、

「あれ、包帯がギブスに変わってない?」

と聞いてきた。

「うん。昨日進化した。検査もしたし。」

「昨日検査だったんだ。で、どうだった?」

「最悪。最悪の状態だった。テニスやるには手術必要みたい。」

「マジですか?え、いつするの?」

「分からない。来週の診察で手術するのかしないかって話を最終的にするから。でも、近いうちにはすると思うよ。」

「そうなんだ。ってか、ギブスしてるんじゃん。今度、油性マジック持ってくるわ。」

僕は、思わず笑ってしまい、

「無理。」

と答えた。やはり、ギブスを見るとみんな考える事は同じなのだろうか?でも、確かに幼い頃からの思いでを考えても実にギブス=落書きと言う方程式は実に綺麗に成り立つ。でも、落書きは御免だった。

 

 放課後、僕はそのまま病院に向かった。ギブスチェックのためだ。

また、昨日のギブス室へと入ると、昨日と同じ人がいた。

「どう、ギブスはめた感じは?どっか痛いとか窮屈とかない?」

「膝が痛いです。」

僕は少しジョークをかまして見た。

「(笑)それはそうだね。ギブスがあたって痛いとかは大丈夫?」

「少し、小指の所のかどが当たるのが気になります。後、少しふくらはぎの当たりがきつい感じがあります。」

「ふくらはぎは、そのうちゆるゆるになるよ。筋力落ちて。それまで我慢できないなら巻きなおすけど、大丈夫でしょ?」

「はい。」

「それと、小指は確かに少し当たってるね。少し、全体的に指にかかり過ぎてるかもね。じゃあ、全体的に、2ミリくらい短くするね。良い?」

「あ、お願いします。」

「ちょっと、待っててね。」

と言って、ギブスを切る電動のこぎりを持ってきた。僕は、あれが恐怖で恐怖でしょうがない。何度か体験したが、体まで切れそうで怖くて怖くて仕方ないのだ。ギブスの先っぽに、折り返してあった靴下のようなものを延ばすと、ギブスの先っぽが綺麗に出てきた。青色の綿も見えている。電動のこぎりを持った人がギブスを少しずつ切って行く。

「熱かったらすぐ言ってね。」

といいながら、慣れた手つきであっという間に僕のギブスを綺麗に切った。そして、靴下のようなものをもう一度折り返し、テープを貼って、元の状態にした。小指の部分はすっきりしてた。

「ところで、昨日の女の子は誰?兄弟?」

「いや、彼女です。」

「あ、彼女なんだ。随分ラブラブなんだね。一緒に病院来るなんて。」

「いや、彼女は僕と同じ部分を怪我した経験があるので僕を支えようと必死でやってくれてるんです。」

「そうなんだ。怪我してるの膝のどこだっけ?」

「前十字靭帯です。」

「そっか。大変な所だね。」

「ところで、今高校生?」

「はい。高3です。」

「じゃあ、受験じゃないの?」

「僕は、アメリカの大学受けるんで、もう出願とか終わったんです。2週間前なんですけどね。だから、とりあえず、結果待ちの状態なんです。」

「そうなんだ。アメリカか…大変だね。じゃあ、行くまでに怪我を治さないとね。でも、アメリカ行ったら、彼女と別れるんじゃないの?」

「いや、彼女も一緒の大学受けてるんで。」

「そうなんだ。じゃあ、ますます今から関係が進化して行くんだ(笑)。」

「まあ、そう言ういい方も出来るかもしれませんね。でも、どうなる事か…」

会話が少し弾んだ。僕は、こうやっていつどこでも、会話を弾ませるのが大好きだ。人と会話するのが楽しい。だから、アメリカのように人と会話する機会の多い国にはあこがれてしまうのかもしれない。 

 

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Written By M