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 H

 話がややこしくなる前に、ここで、少し人間関係を整理しておくと、僕と林は中学、高校の同級生。同じテニス部に所属し、中学の頃からダブルスを組み、数々の大舞台に出てきた。しかし、中学最後の大舞台の全国大会は怪我で出場できず、2人とも苦しい思いをした。しかし、いまだに2人のペアーは健在で、周りのどのペアーよりも息が合っていた。そして、僕らは、2人でアメリカの大学に行こうと高35月に留学の塾に通い出した。僕は、推薦で慶應を目指していた時期もあったし、林は東工大を目指して勉強してた時期があったが、2人にはどうしても捨てられない夢があり、その道を選んだ。塾に通い始めて僕と林はりゅうじと言う奴と友達になった。そして、彼とサッカーの話しをしている時に、話に入ってきたのが、有季だ。そこで、僕と有季は意気統合し、友達以上の関係として、仲良くなった。彼女の父親は、建築士で建築事務所の仕事で彼女が4歳の時からニューヨークへ行っていた。しかし、彼女が中学に上がる時、L.A.の事務所に行く事になったのを良い機会に、彼女に日本の教育を受けさせるため、彼女と彼女の母親を日本に帰国させた。しかし、日本の教育をまったく受けた事がなく、日本の教育に馴染めず、戸惑っていた。そんな彼女を助けたのは同じくニューヨークから帰国した直美ちゃんだった。2人はすぐ仲良くなり、親友となった。ここで、話を現代に戻すと、僕と有季は、そのまま友達以上の関係を続けていた。そんな最中の夏休み、直美ちゃんが突然僕らの塾にやってきた。受験勉強を途中でリタイヤし、有季とともに、アメリカの大学に行く事を目指す事にしたのだ。初対面で直美ちゃんに一目惚れした林は、いつのまにか直美ちゃんの事を好きになり、そして仲良くなった。僕は、有季に9月に告白し、林も後に続いた。結局、4人で2組のカップルができ、綺麗におさまった。やがて、11月の初めに、アメリカの大学の入試であるSATを受け、僕らの入試は終わった。点数的にも4人は似たり寄ったりだと推測できたので、同じバージニアの大学を第一志望に目指す事にしたのだ。そして、平和のうちに大学の出願を終え、一段落した所で、僕が怪我したのである。これからが恋の本番だと言うのに。

 

 次の月曜日、今日は一斉に全ての試験が返却される。僕は嫌だなと思いながら学校へ行った。すると、河本が珍しく早く学校へ来ていた。

「おはよう。」

「おはよう。」

「今日は珍しく早いね。」

「あ、今日?珍しくね。6分のバス乗っちゃった。あ、そう、足の状態どう?」

「全然。手術する事に金曜なったんだ。」

「マジ?」

「うん。マジ。手術しないとテニスが出来ないんだ。」

「そうなんだ。いつするの?」

「まだ決まってない。日程が合い次第、早いうちにって事になってる。」

「そうなんだ。あ、そう言えば、吉田の話しだと包帯がギブスになったの?」

「そうそう。ギブスになちゃった。不便で不便で。」

「愛する人とのHも出来ないって?」

「え、しちゃった。」

「そう言えば、河本君はどうなの?例の女の子?」

「あ、順調、順調。クリスマスに遊ぶんだ。そうだ。試験中は席離れたからあんま話してなかったんだ。そうそう、聞いておいて、彼女に。クリスマスは何して遊びたいかって。」

「あ、分かった。聞いておくよ。」

「そう言えば、吉田が今日マジック持って来るとか言ってたよ。」

「え、まさか、落書き用の?」

「でしょ。あいつは、推薦だから暇なんだって。」

「暇に見えて、バイトで忙しいみたいだけどね。」

「(笑)確かに。」

なんて、会話していると、吉田がマジックを持ってやって来た。自分で言うのはなんだが、自分たちは高3にしては幼いのかもしれない。

 

 その後、試験返しの間、僕らは怪我トークで河本と盛りあがってしまった。

「ってか、足にギブスするってマジ、大変そうだよね。」

「マジ大変よ。」

「そう言えば、俺って中3までギブスって知らなかったんだ。どんなものか。」

「なんで、また、中3までなの?」

「え、だから、中3の全国大会の前の合宿で、お前と林が、接触して2人揃って怪我したじゃん。あの時、お前らが宿舎帰って来た時に、山田先生が、ギブスはめるような怪我じゃあ、全中は無理だなって言ったの覚えてる?」

「当たり前じゃん。あの一言で俺ら、マジ、へこんだもん。2人で部屋で泣いてた。」

「で、その時に、ギブスって何?って思ってて、よくよく見ると、なんか包帯ぽいんだけど、なんか固まってて、ずっと気になってたんだ。しかも、風呂の時間になっても外さないし、何してるの?ってずっと気になってたんだ。で、全中の頃には薄汚れてきてるのに、外さないからずっと気になってた。で、俺が、その後、左手骨折したじゃん。で、その時に、医者からギブスします言われてはめて見たら、石膏像みたいな感じで、めちゃくちゃ固いし、あれ、8月の終わりだったから、凄く汗掻くのに、外れないから、汗の臭いがこもって、臭くて。それで、ギブスって初めて知ったんだ。」

「そんな事あったね。あ、で、あの時に、左手で良かったね。骨折したのって先生に言われて、河本君、しらけた顔してたよね。河本君、左利きなのに。」

「そうそう。なんか、懐かしいや。人生最初で最後かもしれない。骨折なんて。でも、痛かったや。」

「ってか、河本君、あれで1回合コンをパスしたんじゃなかったけ?」

「なんで、そんな事覚えてるの?あの時は恥ずかしかったんだって。骨折して首から三角巾を下げて行くのが。しかも、汗臭かったから、即、嫌われそうだし。なんか、話のネタにされて終わりそうだったし。」

「なんか、懐かしくなってきた。でも、手より足はきついよ。移動が不便で仕方ないもん。」

「いや、利き手もきつかったよ。文字書けない、ご飯食べれないだから。」

「確かにね。どっちもどっちかな。」

「ってか、1回ギブス触らせて。3年ぶりに触って見るや。」

と言って、河本は僕のギブスを触っていた。

「なんか、やっぱ、懐かしい。あ、松葉杖も貸して。一度、ついて見たかったんだ。小学校の時とか誰か足を怪我すると、みんな集まってその人の松葉杖を借りて、ついたりしなかった?」

「した、した。」

「俺は、その時、1回も借りてついたことなくて、1回ついてみたいなって思ってるうちに、高3になったんだ。」

「あ、いいよ。次の休み時間、松葉杖で散歩してもらっても。俺はどうせ、動かないし。」

 

そう言っておくと、河本は、次の休み時間僕の松葉杖で散歩に行った。つくのは全くの初めてと言うのに、僕が少しコツを教えるとそのままうまく歩いていた。

 

「松葉杖って、疲れるもんなんだね。なんか、10分も歩いてないのにクタクタ。」

「でしょ。どこに行くのも松葉杖って結構きついっしょ。」

「確かに、分かるわ。ってか、良くこんなんで学校来るね。」

「根性、根性。ってか、松葉杖にも慣れちゃったから。」

「俺は一生なれないと思うや。いや、一生つく用事がない事を願うや。」

「そうだね。こう言う余計な苦労はする必要ないよ。」

僕は、少し珍事だなと思った。僕と河本の話題は、ほとんどがテニス部の事か親の事か女性関係の事。怪我の話しなんて語った事がなかった。僕は何かいように不思議な感じがした。いつも、恋愛相談みたいな事をやってる人間とこんな話をするんだから。

 

 その夜、僕がうたた寝しているとメールが来た。サブディスプレーの表示を見ると、

ロングメール

河本卓也

と出ていた。河本からだ。

[件名]

 

 

[本文]

今日、聞いて。ゆみっ

ちと凄く盛りあがれた

よ。まっとんに今日松

葉杖借りたおかげで。

ゆみっちも前、骨折し

て、松葉杖ついたこと

があるんだって。なん

か、そう言う話してた

ら、超盛りあがちゃっ

た。ギブスの話なんか

もしたりして。おかげ

で、距離が少し縮まっ

たよ!

あ、それとクリスマス

の事、宜しく!

 

河本にしては珍しく長いメールだった。いつも河本のメールは結構淡白としていて、短くストレートなものが多い。でも、今日は余談が多いし、普段のメールではなかった。と、そう思ったとき、僕はまさかと思いながらもある事を悟ってしまった。

 しかし、気付くと、僕はギブスをして10日も経っていたことに気付いた。そして、怪我してからで数えると、17日。もうすぐ、20日が経とうとしている。時の流れは早いものだ。僕は、そう思いながら、膝のあたりをギブスの上からさすって見た。まだまだ、先は長い。でも、手術をする事は正式に決まったし、僕は、これから、1つ1つのステップを乗り越えて行くのだろう。

 


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Written By M