第11話
「ふぅ。」
あたしは部屋でエルヴィス・コステロを聴きながら6度目のため息をついた。
佐久間くんと海へ行ったあの日から、もう3週間が経ったのだ。
階段に座って、話をして、キスをして・・・。
佐久間くんは「帰ろう」と言った。
車に乗って、話すことを探してるうちにあたしは眠ってしまって・・。
思えば、あれ以来ちゃんと話してない。
あのキスは何だったんだろ・・。
思い出すだけで恥ずかしい。だってあたし・・初めてだったのに・・。
「はァ。」
7度目のため息をついた後、あたしはおなかがすいたのでコンビニへ行った。
飲み物と雑誌を買ってコンビニを出ると、走ってくる女の子とぶつかった。
「痛ッ!」
「あ、ごめんなさい・・。」
オドオドしながら謝るその子の顔を見ると・・
「雛!?」
「あ・・琳ちゃ・・ん。」
顔をよく見ると、瞼は腫れていて、頬には涙のあとが残っていた。
シャツはビリビリに破れていて、髪の毛は乱れていた。
「どう・・したの?そのカッコ・・。」
「・・・。」
雛は黙って下を向いた。
「あ・・とりあえずこれ着なよ。」
あたしは着ていたGジャンを雛の肩にかけた。
「ありがと・・。」
「・・どうしたの?」
顔を覗き込むようにしてそう訊くと、雛は泣き出した。
「ハァ・・。」
あたしは8度目のため息をつき、それから、雛の手を引いた。
「え・・な・・どこ行くの?」
「家。」
「だ・・だって・・。」
「話聞くだけだから。」
あたしがそう言うと、雛は黙ってついてきた。
家のドアを開けて中に入ると、お母さんが玄関に来た。
「おかえり琳・・友達?」
握っている雛の手が震えているのがよく分かった。
「うん。同じクラスの咲坂リナちゃん。」
「・・・おじゃまします・・・。」
「そう。あ、カフェオレ買ってきてくれた?」
「ハイ。」
あたしはお母さんにカフェオレを渡し、2階に上がっていった。
お母さんには悪いけどちゃんと騙せてヨカッタ・・・。
でも・・なんか胸が苦しい。
お母さんだってずっと雛に会いたがってたのに・・。
部屋のドアを閉め、あたしは雛の正面に座った。
「で、一体どうしたっての?」
「・・・。」
「・・答えたくない?」
雛は小さくうなずいた。
その頃・・。
母が、二人分の紅茶とお菓子を用意し、嬉しそうにほほ笑みながら階段を上っていった。
そして、琳の部屋の戸を空けようとしたとき、中から話し声が聴こえ、
思わず耳を傾けてしまった。
「・・・どうしても言いたくないって言うんなら仕方ないけど、
10年間離れてたって言ったって、あたしはあんたの姉なんだし、
そんなカッコで泣きながら歩いてたらやっぱり心配しちゃうのよ・・。」
「うん・・・。」
姉・・?どういうこと?あの子はたしかリナちゃんって・・。
「琳ちゃん・・あたしウソついてたの・・。」
「ウソ?雛、ウソってどういうことよ!」
ヒナ?あの子が雛なの?
母は、呆然と突っ立って、ただ二人の会話を聞いていた。
ふたりは、まさか母が自分達の会話を聞いているなんて思いもしなかった。
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