第12話

 

「あたし・・幸せに暮らしてるって言ったよね・・。」

「うん。」

「それが・・ウソな・・の・・。」

雛は涙を堪えてそう言った。

「・・幸せじゃないの・・?」

「幸せなわけ・・ないよ。」

「でも・・おじさんもおばさんも親切にしてくれてるって・・。」

「だって・・言えるわけないじゃん!

 たった一人の姉に・・ 『あたしは奴隷扱いされてる』なんて!!」

奴隷扱い・・・。

あたしの頭の中は真っ白になった。

幸せに暮らしてるって、雛がそう言うから、

だからあたしは・・『あたしなんかが今さら首突っ込むことじゃない』って、

自分にいつもそう言い聞かせてたのに・・奴隷扱いだなんて・・。

「もっとヒドイこと教えよっか?」

雛は泣きながら静かに言った。

あたしは無言のまま雛を見ていた。

「あたしは・・今の家に来たあの日から、ずっとジジィの相手。」

「相手・・って・・。」

「決まってるじゃん。セックスの相手よ!」

雛はそう言って下を向いて泣きだした。

もう、涙も出なかった。

今まで頭の中にあった「幸せ」という文字がガラガラと崩れていく。

どうして・・どうして雛がそんな目に遭うの・・?

そのとき、戸が大きな音を立てて開いた。

「お母さん!」

「雛・・!」

お母さんは雛を抱きしめた。

「ごめんね・・今の会話・・ずっと聞いてて・・。」

光が当たるとお母さんの頬がキラキラ光って、

涙の流れたあとがよく分かった。

「ママ・・ママァ・・!」

雛は大声をあげて泣いた。

10年前と変わらない、泣き虫でワガママで甘えん坊の雛が、あたしの目の前にいた。

雛とお母さんが、壁にかかったカレンダーが、クーラーが、

見るもの全部がぼやけてハッキリしなくなった。

気付けばあたしも泣いていた。
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