第18話


次に目がさめたとき、MAC型の時計は午後11時27分をさしていた。

今日のうちに帰らなきゃ、さすがに、みんな心配しちゃうよね・・。

いくら佐久間くんの家とあたしの家が近くても・・。

あーあ・・もっと一緒にいたかったなあ。

勝手にシャワーを借りて、眼帯をして、服を着た。


「佐久間くん、佐久間くん。」

電気をつけて、グッタリと眠っている彼を起こす。

「・・ん?あ、琳。」

重そうな瞼を、半分くらい開けた。

「あたし、かえるね。」

「え?今何時・・?」

「12時くらい。」

「歩いて帰るのか?」

「うん。」

「・・夜中だし、キケンだよ。俺が車で送ってくから。」

「寝起きなのに大丈夫??」

「寝起きいいから。心配すんなよ。それに・・。」

「それに?」

「いちおう、事情説明しておかないとな。」

「えぇえ!?」

「何、驚いてるんだ?」

「え・・だって・・。お父さんにヤったって言うの!?」

「は!?」

「え?」

もう、何が何だかわからないような会話。

「そんなこといえるわけないだろー、もー。」

呆れ顔で彼は言う。

「え・・だって、事情説明するって・・。」

あたしの顔は、真っ赤になってしまった。

「だから、相談聞いてたら眠くなって寝てしまった、とかさ。」

「あぁ・・そういうことね・・。」

やっと意味が判った。

ふう。はづかしい!


そんなわけで、結局、家に着いたのは1時だった。

「鍵あいてるし・・。」

「・・もしかして、帰ってくるの待ってんのかな?」

「え・・ヤバイかなあ・・。」

玄関のドアをあけて、「ただいま。」と言った。

「琳!!!」

「あ・・お母さん。」

「もう、こんな遅くまで何やってたの!心配したのよ!」

「ごめん・・えっと・・。」

「すいませんでした!」

突然の、その声に、あたしとお母さんは驚いてしまった。

佐久間くんが・・頭を下げている・・。

「相談に乗ってたんだけど、いつのまにか寝てしまって・・。」

誠実な男ってカンジの表情。

「そ、そうなの・・なんかあたし眠くなっちゃってぇ。」

「そう・・。わざわざ送ってくれてアリガトね。」

「いえ。」

なんか・・佐久間くんってばオトナ。演技派!?

「よかったら、お茶でも飲んでいく?」

お母さんは、佐久間くんの態度が嬉しかったのか、笑顔でそんなことを言った。

「あ、いえ。あしたも仕事ですし・・。」

なァんだ・・帰っちゃうのか。

「そう。こんな遅くまでごめんなさいね。わざわざ、ありがとう。」

「いぇ・・それじゃあ僕は失礼します。」

僕・・。

あたしのことからかってるときとは別人だ・・。

「それじゃあ、ばいばい。」

あたしがそう言うと、佐久間くんはニッコリ笑って、車に戻っていった。

はーァ。なんか、さみしいなあ・・。

はじめてエッチした男女ってのは、朝まで抱き合ってるものだと思ってた。

そううまくはいかないのか・・。

「琳、車に忘れ物してる!」

「え?」

急いで、車に近寄る。

「まったく、そそっかしいんだから。」

お母さんはそう言って、家の中に戻っていった。

「何?忘れ物って・・。」

あたしが聞くと、佐久間くんは不敵な笑みをうかべ、キスをした。

佐久間くんの見様見真似(見てないけど)で、あたしは舌を入れてみた。

彼は、ソレに応えた。

「ふぅ・・ウマクなった?」

「まだまだだな。」

「クスッ。」

「眼帯が頬に当たって、変なかんじだった。」

「次は、ちゃんととってしようネ。」

「おぅ。じゃあな、ばいばい。」

「またね。」

あたしは、佐久間君の車が曲がり角を曲がるまで、ずっと手を振っていた。



家の中に入ると、お父さんも、お母さんも、雛も、みんなソファーに座っていた。

どうしたんだろう・・。

そういえば、今日は、お父さんがあの人の家に行って来たんだ・・。

こんな大切なことを忘れてた・・。

「お、お父さん・・どうだった?」

あたしが恐る恐る訊くと、お父さんは笑顔になった。

「すんなりと、遠くへ行くって言ってくれたよ。」

「本当!?」

「あぁ。」

「じゃあ、もう、雛とその人たちが会うことはないのよね??」

「あぁ、それも約束してきた。」

「よかったあ・・よかった!本当によかった・・。」

こんなに、いいことが続いていいんだろうかってくらい。

ひさしぶりに、しあわせだって実感した。

「・・んとに、よかったね雛・・。」

あたしは、嬉しくて泣き出してしまった。

雛も、目に涙をためて、笑顔で頷いた。

目の前にいるワガママなこの妹が、とても愛しく思えて、抱きしめてしまった。

「ちょ・・琳ちゃんてば・・。」

「よかったぁ・・。」

家族4人が、そろって笑顔になっていた。

お父さんも、お母さんも、雛も、あたしも。



ベッドに入ると、雛が、静かに言った。

「ねえ琳ちゃん。」

「何?」

「伊織・・何してるかな・・。」

あ・・!

遠藤伊織・・。

あれからどうしたんだろう。

まだ、あんな状態でいるのかな・・。

どうしよう・・あたし・・。

自分ばっかり、しあわせとか言って・・あいつのこと傷つけたのに・・。

「あした・・学校来るかなあ・・?」

「・・来るといいね・・。」

これは、あたしの本音でもあった。

「うん・・おやすみ琳ちゃん。」

「おやすみ。」

あたしは、遠藤伊織のことが気になって、なかなか寝付けなかった。
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