第6話

 

「ミルクティー飲む?」

「うん・・。」

あたしは佐久間くんの部屋に来ていた。彼の部屋も、病院の近くにある。

昔はよく遊びに来ていたけど、中学校を卒業してから、ずっと来ていなかった。

「はい。熱いから気ィつけろよ。」

「うん。ありがと・・。」

あたしがミルクティーを飲んでいると、彼はこう言った。

「さっき泣いた理由・・ムリには聞かないけど、話したくなったらいつでも話せよ?」

「うん。」

あたしは、雛のことを聞いて欲しかったけど、話すうちにまた泣いちゃいそうだったのでやめた。

 

次の日のお昼。遠藤伊織は、何も言わず机を向かい合わせてきた。

「今日寝坊しちゃって・・寝癖が・・。」

「あんたモテてるくせに髪型とか気つかわないのね。」

「モテるやつがみんなナルシストなわけじゃないんだけど?」

「でもモテることは認めるんだ。」

「これでモテてないとか言ったら、怒られるじゃん。」

「まぁね。」

「・・・。」

「・・・。」

「あ、数学の問題やってきた?」

「うん。」

「俺も今回はがんばって書いてきたんだ。」

「ふーん・・。」

「・・・。」

一つの話題が終了すると、沈黙が訪れ、

遠藤伊織はあせってどうでもいいような話題をだす。

あたしは単刀直入に聞いてみた。

「なんで雛とのこと聞かないの?」

「えっ・・。」

「あんな変な会話聞いたら、気になんないの?あんたみたいなやつは。」

「そりゃぁ気になるけど、でもムリに聞き出すのはヤだし。」

「ふーん・・。あんたってわりと人の心分かんのね。」

「まぁねっ・・。」

「・・・。」

『自分勝手でワガママな男だから、きっと今回のこともしつこく聞いてくる。』

と思ってたから、少し驚いた。

 

放課後、ゲタ箱をあけると、手紙が入っていた。

「何コレ・・。」

開いてみると、いかにもギャルっぽい字で

『これ以上伊織に近づくな。眼帯してるからってみんなが

 同情するわけじゃないじゃん。ハッキリいうけど、あん

 たなんてキモチ悪いだけ!            ミナ。』

と書いてあった。

「バカらし・・。」

そう呟いたとき、

「亜矢音も今帰んのっ?」

遠藤伊織がいつもの調子で話し掛けてきた。

「あっ・・。」

あたしは慌ててその手紙を後ろに隠した。

「・・何?手紙?もしかして今時ラブレタァ!?」

「ちがっ・・。」

「何だよ、見せろよ。」

遠藤伊織はからかいながらあたしの手から手紙をうばった。

そして、手紙を開いて静かに読んだ。

「何だよコレ・・。」

遠藤伊織は手紙をぐしゃぐしゃに丸めて、血相を変えて走っていった。

「な・・ちょっと待ってよ!!遠藤っ!」

どうしよう・・・この手紙書いた「ミナ」ってコのとこ行く気?

あたしは急いで教室へ走って戻った。

戸を開けようとすると、遠藤伊織の怒鳴り声が聞こえた。

「オマエどういうつもりだよ!」

あたしは、そっと覗いてみた。

「・・本当のことじゃん。」

「・・亜矢音が好きで眼帯つけてるとでも思ってんのかよ。」

「・・・。」

「俺は詳しく知らないけど、事故とかにあって、仕方なく眼帯つけてるだけじゃねえのか?

 それをキモチ悪いとか誰も同情しないとか、そんなふうに言うなよ。

 もしミナが交通事故で右足なくなって、義足つけて学校へ通うことになって、

 誰も話し掛けてこなくて、自分からも話し掛けられなくて、いつも一人で・・。

 そんなときに「キモチ悪い」なんて言われたら、絶対傷つくだろ?」

「・・何でそんなにムキになんのよ。」

「別に・・。」

「どォせ伊織だって同情してるだけじゃん!あの女と街歩けっていわれて、

 ちゃんと普通の女と歩くみたいに歩ける?」

「亜矢音は普通の女だよ。」

「・・・もういいわよ。勝手にラブラブしてればぁ?」

「とにかく、もうこんな手紙書くなよ。」

「ハイハイッ。」

そう言ってミナってコとその友達が、戸を開けた。

「あんた今の話聞いてたんだ?」

「・・。」

「まぁ、がんばればぁ?」

「キャハハ!」

そう言って二人は帰っていった。

あたしは、遠藤伊織の言葉がすごく嬉しかった。

恋愛感情とかそういうのじゃなくて、ただ、

あいつが悪い人じゃないってことが分かって、嬉しかった。

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