第9話
カメラマンたちを巻くために回り道をして、20分くらいで
やっと伊織がお母さんと2人で住んでいるマンションに着いた。
といっても、伊織のお母さんはスナックのママをしているので、
帰ってくるのは夜明け頃か朝のどちらからしい。
「・・とりあえず、服貸すから。」
あたしは、俯いたまま床に腰を下ろした。涙はまだ止まっていない。
「・・フロ入る?なんか飲む?」
「・・・何にもしなくていいよ・・。すぐ出てくから・・。」
「出てくって、行く当てあんのかよ。自分の家のほうから走ってきただろ?」
伊織の質問に答えようと思ったら、涙がまた溢れてきて、返事ができなかった。
「・・・状況説明できる?」
「・・・。」
「イヤなときは言わなくてもいいけど・・。」
「あ・・あたし・・いつもとおな・・同じように玄関にで・・たら・・あいつらが・・。」
伊織があたしをじっと見つめているのがなんとなく分かった。
「ア・・アダルトビデオのさつえ・・いとか言って・・・。」
「アダルトビデオ!?」
「ジジィが・・勝手にけい・・やく交わしたみたい・・で・・。
そ、そいつら・・家の中はいってきて・・ム、ムリヤ・・リ撮ろうとするか・・ら。」
あたしは、自分が何を言っているのかもよく分からないような状態で、
ただ、泣きながらしゃべっていた。
「逃げだ・・そうとおもっ・・思ったら・・服、や・・破られて・・。・・でも・・逃げてきた・・の・・。」
伊織は、何も言わず、自分のシャツを、そっとあたしの肩にかけた。
そして、
「なんか冷たい飲み物買ってくるから。」
と言って立ち上がり、サイフをポケットに入れた。
「待って・・。」
伊織が振り返る。
「ひ、ひと・・りに・・しないで・・怖いよォ・・。」
あたしは、カワイイ女を演じるとか、そういうことを全部忘れて、
ただ、『ひとりにしないで』と何回も言うと、伊織はあたしの前に座った。
たまに見せるあの淋しげな表情をしているのが、見なくても分かった。
「・・『ジジィ』って・・父親のこと?」
あたしは首を横に振った。
「・・・援助とかで知り合ったのか?」
「ちがぅ・・。一緒に・・く、暮らし・・てる・・。」
伊織は、驚いたような表情は見せず、ただあたしをあの目で見ていた。
「ほん・・との・・お父さ・・んとおか・・ぁさんは・・違うと・・こで暮らして・・るの・・。」
「・・・・・。」
「あ、あたし・・は・・あのジジィの・・。」
ここまで言うと、あとは言葉が出なかった。というよりも、出せなかった。
こんな状況でも、こんなところまで話しても、やっぱり伊織には知られたくない。
「・・ジジィの?」
「う・・言えな・・いよ・・。」
「ジジィの何なんだよ。」
「言ったら・・離れ・・てっちゃう・・伊織・・が・・。」
「離れてったりしねぇよ。軽蔑もしない。だから言えよ。」
「・・・・あたしは・・あの・・ジジィの・・セックス奴隷よ。」
口に出したってことは自分から認めたってことだから、とても辛かった。
そして、何より伊織に言ってしまったというのが、あまりにも悲しくて、
あたしは声をだして泣いてしまった。
伊織の表情が変わったのがよく分かった。
お風呂に入れてたお湯の音が止まったそのとき、伊織は突然、あたしを強く抱きしめた。
「全部俺のせいなんだ・・。」
「・・え?」
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