読み物


Sorry Japanese only


突然の入院Apr.8.1999 UP

真弓は知恵をス卜レッチャーに移した。 「なにするの。」 知恵は小さな声で聞いた。

身体を動かそうとしたが動かない。 「全身完全ギプス固定するんですって。」

「冗談やめて、骨折なんかしてないわ。」
「冗談なもんですか、急性で重傷な脊椎側弯症にかかっているの知らないでしょ。 これいじょう放っておけないの。


頭から爪先まで、隙間なくギプス包帯巻くんですって。」 「全身ギプスなんて、今まで聞いたことない、大腿骨骨折の両足ギプ スだって患者の  苦痛があまりにも大きいから、骨を金具で留めて大きなギプスあまりしないでしょ、  頭から足の先までの完全全身ギプス包帯なんてできるばずないでしょ。

からかわな  いで。」

「全身にギプス巻くって本当に辛いことらしいわ、何処のお医者様も患者さんの苦痛を  考えて、せいぜいコルセットはめてごまかすらしいけど、この本山先生は治療第一主  義なんですって。先生の言うとうりしていたら知恵の命助かるらしいの。親友の知恵  のためだったらとお願いしたの。私なんでもするは、大丈夫よ安心して。
最悪の場合  指先ひとつ動かせない全身ギプス包帯してもいいってお願いしておいたわ、いいわね。」

知恵は手足を動かそうとしたが、シビレて動かない。

「なにかしたんでしょ、昨日までなんでもなかったんだから、ギプスなんか絶対しな  いから。」

「なんてこと言うの知恵が心配で私、本山先生に忙しいのを無理に頼んで診察しても  らったのよ、とっても急性で悪性の全身変形側弯症にかかっているんだって。  
特別な全身ギプス包帯固定すれば今なら一週間でギプス外せるかもしれないの急ぎま  しょ、手遅れになろと一生涯ギプス外せなくなるんですって。大変ね。」

真弓は薄笑いを浮かべていた。 知恵には筋肉弛緩注射を打っていた。その効果が切れそうなので真弓はあせっていた。

「ギプス室の準備はまだ。両手両足と頭を牽引固定さえすれば動けなくなるでしょ。  
そうしたら手術とギプスは遅れてもいいから、今から行くから。」


知恵にわざと聞こえるように電話で指示をした。
真弓はまだシビレたままの知恵をストレッチャーに乗せ地下の特別ギプス室ヘと急いだ。


「何処へ行くの!私病気じゃないわ、誰か助けて。」

真弓は、あわてて知恵のロに酸素吸入器を当てた。他の患者が一人こちらを見たが看護 婦に変装した真弓を見て何も言わなかった。

「聞き分けがない患者さんでしょ。」

工レベータは直ぐ地下の特別病棟に到着した。入り口を見ると、看板がかかっていた。  整形外科の特別重傷者病棟につき立ち入りを禁ず、医師看護婦も特に許可された  者以外入室禁ずる。

「吸入器外しなさい。」

「助けて誰か!!ギプスされる。」

知恵は大声で叫んだが、回りからは何の反応も返ってこなかった。 一般の整形外科病棟では手や足にギプスをはめられ身動きは制限されているが身体は元 気なのでにぎやかな声が聞こえるが、ここは静かだった。


「整形外科特別重傷者病棟ってどんなとこなの。」

知恵は不安になって真弓に聞いた。しかし返事は返ってこない。しばらくすると病室の 前にさしかかる。

「なに、あのギプス人形!!あっ、頭から足の先まで全部包帯巻かれている人もいる。」

「知恵、あれ石膏でできた人形じゃないの。全身完全ギプス固定された人よ、外見は石  膏像みたいでしょ。だけど人形じゃないの、あなたと同じ病気の人よ。気の毒だけど  あなたも同じ全身ギプス固定されるみたい。仲良くしてあげて。」


真弓はうす笑いをうかベた。

そうこうするうちに地下の特別ギプス室についた。 入り口にはゴムのエプロンと手袋をしガーゼの厚いマスクをした看護婦が待っていた。

「看護婦さん私病気じゃない、全身ギプスなんかしないで、家に帰してお願い。」

「真弓さん、病室見せたでしょ、患者さんが驚いてギプスするの怖がるでしょ。
知恵さん  見た目は大変そうでもギプスってそんなに辛くないのよ、かえって全身ギプスしたほ  うが、ずうっーと楽よ。一週間なんてアッというまです。」

「楽なもんですか、今にわかるわ。」

全身完全ギプス固定の辛い経験のある真弓は思わずつぶやいた。 真弓は本山医師こ頼まれ、二日間だけ全身ギプスベットの中で暮らしたことがある。 知恵の場合と違い全身ギプスベッ卜を作り、それに寝かされその上から包帯でぐるぐる 巻き固定されただけだった。


しかも、顔は額の部分だけの固定なので話も自由にできた。それでも真弓は二日間だけ しか辛抱できなかった。 本山医師は恋人の真弓の苦しむ姿を見て計画の一週間固定を二日に短縮せざろうえなか った。真弓は身代りに後腐れのない知恵を選んだ。

知恵は真弓の友人で天涯孤独な身の上で大きな家に一人暮らしていた。 そこへ真弓が本山医師の息のかかった看護婦を家政婦として送り込んだ。 今度の知恵の入院もその看護婦が仕組んだものだった。 知恵は真弓に気付かれないように、そっと一番優しそうな看護婦に尋ねた。

「この整形外科病棟の患者さん少しも騒がないけどどうかしたのかしら。」

「この病棟は特別厳重な全身固定を必要とした患者さん専門だから身動き一つ出来ない  し顔面ギプスされたら話もできないでしょ。」

「皆さん気の毒ね。」

知恵は他人事のように言った。 看護婦達は哀れみを込めた目で見た。

「さあ、到着ましたよ。」 ス卜レッチャーは中に入った。

「先生私病気じゃない。真弓の悪い冗談なの身体だって段々動くようになってきたし、  先生診察しなおしてください。お願いします。」

「そんなこと言ったらわざわざ心配して連れて来てくださった真弓さんに悪いですよ。  気がすむなら診しましょう。」

「ありがとうございます。」

知恵はス卜レッチャ−からそっと白いタイルの床に立った。

「アッ、真っ直ぐ立てない。」 知恵の身体は大きく右に傾いたままだった。真っ直ぐ立とうとしても立てない。

「どうしよう、本当に病気かしら。」 知恵の体の右側に特に強い弛緩注射が打たれていた。 「わかったでしょ、可哀想だけどあなたは急性で悪性の変形性全身側弯症になってしま  ったの。

今すぐ治療しないと全身の関節が変形して死にます。これからあなたが身体  を絶対動かせない特別完全全身ギプス固定します。今すぐ治療療しないとあの真っ白  いギプス人形の姿で十年以上の入院になってしまう。

手遅れにならなければ一週間で  ギプス外せると思う。後一日遅かったら確実に手遅れですよ、真弓さんに感謝なさい。」 知恵は曲がった自分の体を見てしぶしぶ拷問のような全身完全ギプス包帯を巻くことに 同意した。


「はい、よろしくお願いしきす。一週間でギプス外してください頼みます。」

知恵が断わろうがどうしようが最低10年間は全身完全ギプス固定される事は本人以外 みんな知っていた。特殊な全身美容開発と本山医師なしでは暮らせない身体にする為の計画の第ー歩が始まった。

ス卜レッチャーの横にギプス架台がセットされた。 それはベットに何本ものパイブが取付けてあり、両手両足と頭の部分に重りの付いた滑 車が付いている。ベットの上部にはパイプが格子状に固定されていてまるで工事現場の ようだ。

壁と床は白いタイル張りで天井には手術用の無影灯がぶら下がっている。 テレビカメラとモ二ターも完備している。 白い力ーテンで仕切られた隣では、小さなうめき声と看護婦が動く様子が分かった。 知恵は自分のことが心配で隣で何が行われているか気が付かないようだ。


「すみません支度が遅れまして。」


ギプス担当の看護婦が大きなワゴンに荷物をいっぱい積んで来た。

「お隣さん、もうすんだかい。」 本山医師は看護婦に聞いた。

「いいえ、まだだいぶ時間がかかりそうです。やっと全身に綿包帯巻いたとこです。
 こちらがあるので、今日は終わりにしました。」


看護婦達は急いで知恵の準備にかかった。  ワゴンの覆いをとると、巻軸包帯、フェルト、ギプスが山と積まれていた。その脇に はオムツとオムツ力バーがあり、ピ力ピ力の手術用具も用意されている。 知恵はあまりに沢山の包帯の山に驚いた。

「その包帯全部、私の治療用ですか?」

「そうよ、全身に隙間なく包帯巻くには少なくとも100本はいるわ。今日から この包帯があなたの洋服替わりですよ。手術がすんだら包帯に替わってギプスが洋服 ね。今着ているもの全部脱いでください。」

上着を脱ぐとベェージュのボディースーツが見えた。

「あら、随分窮屈そうな下着つけてるのね、でもそのボディースーツ必要なくなるわ、  とっても矯正力の強いギプスのボディースーツつけるのよ。一度着けたらそれ以上絶  対ふとれないわよ、うらやましい。」


「ふざけないで、私が病気になってそんなに楽しいの、ギプスのミイラにされるのよ、一 週間だって大変なんだから。」


「早く下着全部脱いでギプス架台に寝なさい。」

看護婦達は素早く両手足に牽引用の包帯を巻いた。頭にわグリソン氏帯を付けた。頭と両手足を牽引用の滑車に取付け体が水平になるまで重りをぶら下げた。 知恵は身動き一つできなくなってしまった。

「アッ、関節が抜ける・・・、痛いやめて。」


看護婦はオムツを厚めに尻にあて花柄のオムツ力バーでくるんだ。

「私、オシッコもウンコもわかるからオムツやめて。」

「その格好じゃ卜イレに行けないでしょ。お漏らしするといけないから用心の為ね、  明日になればオムツいらなくなるから。」

手際よく包帯が巻かれていく。両手と両足それに胴体にも包帯がきつく巻かれてしまった。 もう決して動けない。

「先生顔はいいんでしょ、顔はには牽引帯がしてあるじゃない煩わしい、やめて。」

知恵は顎にかかった牽引帯のため不自由になった口で頼んだ。

「そうだね、目と口だけは出しておこう。」

「顔の骨が変形するわけじゃなし、顔だけは包帯しないで、お願い。」

「いや、変形するんだよ、来る途中で顔までギプスした人ヘ見たでしょ、顔がギプスか  ら出ていたかい。この特別整形外科病棟に入院したあなたと同じ病気の人達は皆んな  完全顔面ギプスなのよ。」

「・・・・・・・・」 知恵は黙ってしまった。

「先生ギプス一週間で外せないって思っているんでしょ。」

「そんなことないです、すぐ外せます。」

軽い返事がかえってきた。 看護婦の縁は、知恵の鼻に太い二本の力テーテルを挿入した。そして顔に分厚い ガーゼをのせ目と鼻と口の部分に穴を開けた。

「ちょと煩わしいと思うけど我慢してね、完全顔面ギプスはめられたらこんなもんじゃ  ないのよ。」

看護婦たちこれから行われる残酷な全身完全牽引ギプスを思い涙ぐんでいた。 真弓だけは機嫌がいい。 緑看護婦は顔に厚く軟膏を塗り、その上をガーゼで覆った。隣の若い看護婦が手際よく その上に包帯を巻いていった。知恵の顔はみるみる真っ白い鞠のようになっていった。 真っ白な鞠からは少し目と口の穴が見えるだけだった。

もう包帯の鞠の中が誰であるか分からなくなっていた。

白い包帯でできた鞠の真ん中からはオレンジ色をしたカテーテルがぶら下がっていた。 そのうち一本は酸素ボンベへ、もう−本は2リッターのイルリガー卜ルヘつながっていた。 看護婦は知恵の口にマウスピースをはめこんだ。

「何でこんなの着けるの、しゃベりづらくてしょうがないじやない。」

「この全身完全ギプス固定は整形外科の治療法の中で、最もつらい治療法だから途中で  我慢できなくて、自殺をする人がいるの。これをはめれば絶対自殺できなくなるでしょ。」

「さあ今日はここまでにしよう。」

本山医師は帰っていった。 真弓は知恵の喉にマイク口ホンを取り付けた。 緑達はあとでその残酷な意味が分かった。
つづく
第2章